写真撮影のお仕事をされる佐々木さん。こちらは寝ている白鳥
どんな風に、そしてどれくらい自然が好きなのですか。
自然が好きというよりも自分も自然の一部だと思っていますから。極論すれば「人と自然」って言葉にも抵抗があります。それを言うなら「自然の一部である人」でしょうし。つまり人間と自然は対極的に考えられるものじゃなくて、人間も含まれての自然なんですね。

 だから、自然って自分そのものでもあるし、自分以外もそうであるし、この世のものすべてが自然。自分も、他人も、空気も、昆虫も自然なんです。好き嫌いとかじゃなくて、うまく言えないけど“人生そのもの”って感じかな。
 こういう風に言うと勘違いされそうだけど、悲愴感を持っているんじゃなくて、楽しんでるんだけどね(笑)。

 あと僕は人間自体が悪いという、人間を否定する自然保護はあんまり賛成できないんです。そう言っている人間が人間なんだからインパクトがないし、極論すると自分がいない方が自然に対していいことになってしまう。
 「守りたい、でも悪いのは自分」って“心の中に矛盾が生じる”のですね。それが今まで自然観察とか保護に多くの人が付いて行きにくい部分だったんです。
 だから、僕は自然観の中に人間も入れているんです。

 人間っていうのも動物でしょう。だから車に乗ったり、ビルを建てたりっていうのもそれは“人間って動物の性癖”なのかもしれない。でも、それをやり過ぎちゃってることを考えなきゃいけない。

 昆虫が食べきれないほどの獲物を捕ることはないし、住めもしないような家をつくることはないし、大規模に森を破壊することもないでしょう。だから人間はやり過ぎていないか、フライングしていないかってことを考えるのが大切で、それがおそらく自然を大切にすることなんじゃないかな。
佐々木さんは自然を守る前に“親しむ”ことが大切と言われますがそれはどのようなことですか?s
講演会でもよく話すのですが、人間は親しむ内にだんだん“知りたい”と思うようになり、知ると“守りたくなる”んです。でも頭から「知れ!」と言っても勉強しなきゃいけないし、難しいですよね。さらに、いきなり「守れ!」と言われたら引いちゃいますよね(笑)。

 だから、それはまず置いといて「自然界はこんなにもワンダーランドなんだ」というのを“感じる”ということですよね。僕は自然観察を“自然感察”としているんです。
 そうすると黙っていても「あの花は何なんだろう」とか「この前食べた美味しい草は何なんだろう」と調べたりしますよね。で、知ると守りたくなる。

 このインタビューを読んだ人も“自分でやってみる”ことですよ。とにかく森へ入ってみる、海に行ってみる。田んぼ入ってみる、木に登ってみる。勉強してどうのこうのじゃなくて「行こうよ!」って感じですね。
 行けばたいていの人は「気持ちよかった」とか「紅葉がきれい」って思うじゃないですか。で、「あのイチバン赤い葉っぱは何だろう。ああ、カエデだったんだ」って調べて。
 でも翌年また行ってみて、伐採されて森がなくなっていたら「守りたい!」と思いますよね。そういうことなんです。

 だから難しいことは考えないで「森に行こう」と、その扉を開いて“親しむ”ことを一生懸命やってあげるのが僕たちの仕事なんです。
 さらに、自然に親しむための一般化というか、標準装備ができたらいいなあ、って。普通に誰でも自分のできる場所で、できる範囲で、ちょっとナチュラリストっぽく生活してもらう。(笑)

 例えば会社の行帰りに花見をしたり、子供とディズニーランドばっかり行ってたけどたまには森へ行ってみよう、とか。
 でも、本来そうあるべきはずなんだけど忘れているんですね。だから特殊な人がする、特殊な行為じゃなくて、誰でも普通に親しめるように、一般化をいろんな言葉や行動を通じて表現していきたいなあ、って思います。

  そのために、僕みたいな人間の後継者や仲間を増やしていきたいですね。だから弟子を取ったり、仲間をつくったり、ということはこれからも一生懸命やっていきます。
 今までは研究者はいたけど、プロとして自然を伝える人がいなかったですよね。でも研究することと伝えることは、別のプロフェッションだと思うのです。
 両方できる人はいいですが、歌をつくる人と歌う人が違うように、兼ねる人はあったとしても一般的に違いますよね。

 “伝える”というのは大きな分野だと思うのです。それを養成していきたいなあ、と思うのですね。
佐々木さんはカラスの研究家としても知られる。こちらはハンガーで作られたカラスの巣
ハシボソカラス
ハシブトガラス
伝え方で随分差が出るようですね。森が宝の山に見えたり。
ええ、モノクロの世界がカラーになるくらい。見るもの聞くものすべてが宝物に見えてしまうんですね。僕なんか自然観察をやり始めると一歩も動けなくなりますよ。10メートル歩くのに平気で1時間くらいかかっちゃう。(笑)
 小さな種から大きな森まで見れるから、ほんとミクロからマクロまで宝の山ですよ。だから皆さんを案内する時は結構かいつまんで話しているんです。そうじゃないと進まなくて目的地までたどり着けないんですね。(笑)

 本来人間ってみんな自然が好きなんですよ。これは動物の本能的なものからでしょうけど。例えばどんなに虫が嫌いな人でも、まったく一木一草なくなった方がいいと思っている人はいないと思うんです。 口でそう言ったとしても、実際そういう世界になったら息が詰まっちゃうでしょう。だから“本能的に自然の子供であり、一部である”ことを気付かせてあげる、そういうチャンスをあげる、というがおこがましいかもしれないけど僕らの最大の仕事です。

 でも気が付いたら、そっから先はみんなでドンドン広がっていくから、ちょっと忙しくてそれを忘れている人や、たまたまチャンスが無かった人たちに「ワッ!」て扉を開くだけ。
 けれど、その世界を知ったらみんな帰って来れないくらい魅力に取り付かれちゃう。でも街がいけないということじゃなく、そこにプラス森に行くとかすると、まさに人生がワンダーランドになるんじゃないかな。

 子供たちも受験や現代の文化とかで色んな呪文にかけられているんですよ。「僕は虫や汚いものが嫌いだ」とか「山は苦手だ」とか。  それは何故かというと現場に行って「自然はワンダーランドだ!」って気持ちになったことがないからなんですね。
 だから一度でもそういうところへ行けば分かると思うんです。目がキラキラしてくる。そういう瞬間を僕は「呪文が解ける」と言っているのですが、それを何度も見てますし、またそれが楽しいのですね。

 今の子も、昔の子も同じなんです。自然が好きなのは本能だから、要はそれに出会えるチャンスの問題。
 逆を考えれば、明治時代の頃の子供たちにTVゲームとか渡すとはまるでしょうしね。(笑)

 せっかく自然も存在しているんだからゲームもいいけど、こっちもいいぞ、って。せっかく生きているんだから半分だけじゃおもしろくないし、両方楽しもう、って。
 そして間違いなく自然の方が懐は広いし、体にいいですし、自然の方がまったくないというのもバランスが悪いですからね。
左:佐々木さんの近著「カラスは偉い」
右:「野遊びハンドブック」
これからの自然に望むことは何ですか?また最後に、アクセスされている皆さんにメッセージをお願いします。
自然に望むこと…難しいですねえ。でも多様性に富んでいてほしいですね。今までもそうだったけど四季折々の色んな変化がある、四季だけじゃなくて環境の変化もある、そんな森、自然であってほしい。
 バラエティーに富んだ日本の自然を僕たちも守らなくてはいけないし。いつもワクワク・ドキドキしていたいですね。

 メッセージは、ともかく難しいことは考えないで、山や森へ行きましょう。そしてぜひ、僕と一緒に行って自然の中で遊びましょう、ということですね。(笑)
 他にもカラスなどを通して都会の生き物のお話も聞かせてもらいましたが、 本当に分かりやすく色々なことをおしえてくださった佐々木さん。 「さすが“伝える”プロ!」と感じました。
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