屋久島にて
自然が市原さんを癒してくれたことはありますか。
ええ、九州からずっと芝居の旅を続けて北海道へ行った時のこと。もう、とても疲れていて。目もボーッとしていたの。 けれど、北海道で4ケ所の公演先へ移動する途中、バスの車窓から見る景色がどこまでも緑で、森で、畑で。
 そうしたら目がハッキリと見えるようになって、耳まで良く聞こえるようになって!(笑)ほんとうよ!

 だから「私もう、ダメだ、疲れた。仕事休もうかなって思ったら、北海道にくればいいんだわ!」って思った。それほど緑というものが栄養になったのね。
 まあ、栄養という言葉だけでは表現しきれなくて、生命力というか、元気になるというか…もう少し生きてみようかな、って感じかな。なかなか適切な言葉が見つからないのですが緑ってそういうものね。

 それでまた東京に帰るのだけど、これはこれで「あ〜、帰ってきたな」って。「やっぱり都会にいるから、都会の子なんだな。ここから離れられないんだな」って思うのね。
 このビル、ビル、ビル。車、車、車…。でも、しょうがないのね。自分の家に帰ってきてホッとするの(笑)。

 そう、お仕事に疲れたらね、ロケ先を北海道にお願いしようと考えてるの(笑)。緑は確実に、私に何かを与えてくれる。緑の中にいると、しぼんでいた細胞がもう一度動き出すわね。
女優というお仕事に自然は影響がありますか。
私はすごくロケが好きです。 自然の中での嘘はすごく空しい。それに自然に対抗できる演技は非常に力強くないといけないし、小細工をすると白々しくなってしまうし。
 だから、自然の中で耐えられる演技をしたいなあ、って。

 そんなことから、今回のキューバ・ブラジルのような取材はとても演技に役立ちますね。都会でいくら本を読んでいても、その場所に行かないと自然は実感できませんから。
 また、大自然の中で人間のちっぽけさも考えさせられるし…とってもいいお仕事をいただいたわ(笑)。

 『その場に行って実感する』ということでは、自然と舞台は似ているところがありますね。客席とステージで一緒の空間を共有できるしそれに何が起きるか分からないでしょう。
 思わぬ失敗もあるし、逆に素晴らしく輝くかもしれない。スリルと緊張感。ライブの魅力ははかり知れません。
 ブラウン管などの機械を通したら、失敗は撮り直したり、編集してしまうけど、舞台はそんなハプニングも楽しめますからね。

 ステージの楽しみを味わうには、スタッフ、キャストがものすごい準備をしなければならないってことね。
 お稽古にお稽古を重ねないと強烈なパワーを持った芝居はできません。

 お稽古が一番大切だと思っています。そうでなかったら恥ずかしくてとても人様の前には出られませんもの。
 でもそれは努力とは違うの。そんな暗いイメージじゃなくて、もっと明るいものなのよ(笑)。ひとつの道を進んで行くってことはね。
 
最後に、アクセスされている皆さんにメッセージをお願いします。

そうね、やはり舞台を観てくださるのが一番嬉しいわ。私の育ちは舞台ですから、舞台が故郷ですから。

 また、森の話題で『その男ゾルバ』という芝居を思い出したのですが、ゾルバは自分がもう生きていない何十年先に実をつける木を、今愛おしく植えるんです。自分は80歳の老人なのに。
 その心のありようがゾルバにあやかりたいわ。私を豊かにしてくれます。

 私もそんな大らかで豊かな老境を迎えられるでしょうか。自信はまったくありませんけど、ゾルバのような人にあこがれますね。
ゆっくりとやさしい声でお話してくださった市原さん。テレビなどで拝見したままの、春日のようにふんわりとした暖かさ美しさが印象的でした。

※この文章は市原さんのお話しをもとに編集しております。
ワンダーフォレスト トップへ
インパク会場