飯田こども劇場での公演
そんな自然の音なら、人間にとっても心地よく感じられるのでしょうね。
そうですね、特に子供たちの場合はその反応が顕著ですよ。幼稚園でコカリナを吹くと、せいぜい30〜40分が限度。みんなスヤスヤ眠ってしまうのです。(笑)で、起きると「ふぁ〜、気持ちよかった」って。

 お年寄りの女性からも「不眠症が治りました」とお便りをいただきました。毎晩CDを聞きながら眠りにつくそうです。

 先日サントリーホールでコンサートを開催したのですが、本当に素晴らしいホールで、中は木でできているのですね。
 木の中で、コカリナの木の音がみごとに響いて。音がとても美しく通るのですね。末席の方まで生の音ではっきり聞こえるんです。そこの支配人さんも驚いていました。「このホールにまさにピッタリの楽器だ」って。

 実際、森の中でコンサートをしたことがあるのですが、コカリナの音が木に反響して不思議な響きが生まれるのです。とても気持ちいいですよ。 また、その時に思ったのは「自然の音はじゃまにならない」ということ。近くに川が流れていて、開催前は「うるさいな」と心配していたのですが、ぜんぜんじゃまにならない。

 かえってコカリナの音とマッチして、観客の皆さんがすごく良かったって。それよりも遠くの道を走る1台のバイクの音がすごく気になるのですね。
被爆樹から作られたコカリナ
原材料となった被爆樹
様々な種類の木から作られるコカリナですが、今年、広島の被爆樹からも作られたそうですね。
ええ、一昨年、広島のコンサートで被爆樹の倒木に出会ったのです。1945年に落とされた原子爆弾で体がほとんど焼けてしまった『エノキ』でした。
 その木は何とか生き延びて近くの小学校の子供たちがずっと面倒をみてきたのですが、1984年の台風で力尽き倒れてしまったのです。その木の一部が私をコンサートで呼んでくれた高校生達が保存していて、生徒さんたちが「コカリナは木の楽器だから」ってステージに飾ってくださったのです。
 その後、この被爆樹を送っていただき8本のコカリナを製作しました。

 いただいた時は、なかなかすぐにコカリナを作ろうという気にはなれませんでしたね。そのエノキは強いもので焼けた部分を焼けてない樹皮が長い年月をかけて覆っていて、痛々しいというか、焼けた子供を抱き締める母親のような感じがして。

 また、表面は真っ黒で中が使えるか分からないし、エノキという素材がコカリナには難しいことも知っていましたし。正直できるとはとても思えなかったですね。ただ、何とかやってみて「かすかでも音が出ればいいなあ」という想いでした。
 コカリナ製作には最悪の条件ばかりでしたから、ためらいの中、工房に置いたまましばらくは毎日語り掛けていましたね。「おはよう」とか日常的なことをね。

 ところがある日、虫食いの穴を見つけたのです。「虫が食べるくらいなら中は大丈夫かも」と思い切って1本作ってみました。そうしたら、何とも言えない不思議な音がしたんです。

 音がちゃんと出ることすら驚きなのに。私も500本以上コカリナを作りましたが、その中でも聞いたことがない素晴らしい音色なのですね。綺麗、かつ芯がある響きで。

 本当にびっくりしました。保存状態が良かったことなどが幸いしたのかもしれませんが『木の精』というものが宿っているのでは、と思えました。

 また、秋田杉や屋久杉のように風雪など厳しい環境に耐え抜いた木ほど、上質なものになりますよね。このエノキは被爆という最悪の経験から生き延びて来た。「それで良い木になったのかなあ」とか「何か伝えたいことが音色となって出てきたのかなあ」など考えてしまいましたね。
アイルランド街頭にて
 
コカリナを通して、海外ともさまざまな交流があるそうですが。
8月にもアイルランドへ行ってきました。この国は街中に音楽があふれているのですね。本当に盛んで、パブでもストリートでも生で演奏している。
 僕も公園でちょっと練習していたら、わずか5分くらいで人山ができて。「何だ、その笛は?」って、みんな聞いてくるんです。めずらしい楽器ですからね。コカリナに向ける関心は異常なほどでしたよ。(笑)

 ダブリンでは何も言わないで、ストリートでいきなり吹き始めてみたんです。そうしたらお金がジャンジャン飛んでくるんです。(笑)収集がつかなくなって誰かが帽子を下に置いたら今度はその中に投げ入れられて。あっと言う間に日本円で4〜5000円くらい集まったので、子どもの病院に寄付させてもらいました。本当に音楽は国境を越えるのですね。

 実は、広島でのコンサート直後だったので、その感動をもう少し暖めておきたかったのですね。でも来てみたらアイルランドには「ヒロシマ」があふれていたのです。
 ここは国として核兵器廃絶のために世界の先頭に立っていたのです。ですから僕が持参した被爆樹コカリナには皆さんたいへんな関心を示されましたね。

 他にも韓国からコカリナを聞きに来られて。アフリカからも「これでコカリナを作れないか?」と、真っ黒な木が送られて来たり。(笑)
 でも、アジアから視察に来られた方に「日本はこんなに木があるのに、何で私たちの国の木を持っていってしまうんだ?」って言われてしまいました。

 日本では「森を大切にしよう」という意識が高まっていますが、自分たちの国だけでなく海外にも目を向けて、世界の森を守っていくことが大切なのではないでしょうか。地球全体の問題ですからね。
─ 最後に、アクセスされている皆さんにメッセージをお願いします。
ぜひコカリナをやってみてください。音楽で森林浴ができますよ。「木っていいなあ」って肌で感じることができますし。

 僕はコカリナの音色に合わせて作曲をします。「これをどんなふうに鳴らそうかな」って。コカリナを作って、作曲して、演奏する。これを全て自分でするから、とても楽しい。楽しくて楽しくて、しょうがない。

 また「戦争が何で起きるのかな」って考える時、人間の心が狭くなったり、何かにあおられてヒステリックになったり、まわりも自分も見えなくなるんじゃないでしょうか。
 そんな時、自然の音や木の音は、人の心を和らげてくれると思います。音色で心が落ち着いて、自分も見えるようになる。
 そういうことにもコカリナが役立っていくといいですね。

3日に一度はどこかの街でコカリナのコンサートを開かれている黒坂さん。機会がありましたら、生のコカリナを聞きに行ってみて下さい。

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