●「第1回東京ガーデニングショー」より
小津安二郎監督の『晩春』をイメージして嫁ぎ行く娘と家族のためにつくった庭
お茶をたしなむ家族のために、草や樹木は茶席に生けられるもので構成
緑が白井さんに与えてくれることはなんですか。

やはり、人はそれ無しでは生きていけないんじゃないですか?ただ最近特に思うのは、いつの時代も新しいものって取り入れたいものですが、しかし、庭の植物をすべて外来種にしてしまうと「今までそこに生きていた動物や昆虫はどうなるのだろう」って、ちょっと心配になりますね。
 植物も外国から大量に入ってきていて、それこそ庭の中が、みんな外国樹木にできるほど流通がよくなっているのです。
 
 オリーブがきれいとかミモザの木が素敵っていうのは、変わった洋服を着たいとか、外国の自動車に乗りたいとかと同じことでしょう。
 ですから欲しいものはあると思うし、もちろん私もいろいろ持っています。だけど、たくさんの場所を占める大事な部分で変わったものを使い過ぎると、やっぱり何かしら自然界に影響はありはしないか、人も住みにくくなるんじゃないかって、気になりますね。

 その土地に昔からある在来種を見ていると「いい新緑だなあ」とか「いい紅葉だなあ」っていうのがとてもよく感じられるのです。
 日本の季節は、夏は夏だけでなく、四季が細かく分かれています。そして、ほんの少しずつ豊かに変わっていきます。その季節を細やかに映してくれる植物というのは、やはり日本の在来種が圧倒的にいいだろうと思います。それこそ俳句を詠むのにもいいですよね。(笑)

 だから外国のものを否定するのではなく、大事なところでは地元のものを使って、ちょっと違ったお洒落をしたい時には新しいものを加えたらいいと思うのです。それが逆転してしまうと実際には良く分かりませんが、自然界にも影響があるだろうなあ、と。

どんなデザインのお庭を目指しているのですか。

“家庭の平和に役立つ庭”です。 庭というのは、毎日住まいにあって、家族の当たり前の暮らしを包んでくれるものです。
 当たり前の暮らしを包む庭は、際立つもののない平凡な庭が良いのではないかと、最近思えるようになりました。

 個性的な庭は人目を引きますが、日々の暮らしにあまり安らぎをもたらさないのかもしれません。平凡な庭ほど、自然は人に多くを語りかけ、不思議な力で私たちの暮らしを守り育ててくれます。

 そんな大切な庭をつくるわけですから、お子様が年をとって家から離れても「ああ、またあの庭に帰りたいな」とか、お施主様が若ければ年をとった時に「この庭がイチバンだな」って。そういう風に思ってくだされば、こちらも本望ですね。(笑)

 でも、当り前な暮らしの中で「ああ、いい庭だな」って思える庭ほど作るのは難しいのですね。“平凡だけど、とても感じがいい”というのが一番難しい。それはお客様にも、つくり手にも実力がないとできないですから。

適切な植物を組み合わせることで、相互の植物に良い環境を作るコンパニオン・プランティングの例(写真:メディアファクトリー刊「ファミリーガーデンー子供たちの庭・家族の庭」)
庭は人と自然の真ん中にあるようですね。

そうですね。“自然そのものの中に住む”ということは、多くの人にとってなかなか難しいことです。だから、庭というのは人と自然の真ん中にあって“住宅を厳しい自然から守る”ことと、逆に“自然の恵みを生活にもたらす”という役割があるのです。

 寒さや暑さ、風や西日から守ってくれて、そして人の心も守ってくれるものです。夏涼しく、冬暖かく住めるのは庭があればこそだと思うし、また、お陽様が当たれば洗濯物も干せるし、冷たい風が吹けばお魚も干せるし。(笑)

 その庭のあるのは都市なのか、田舎なのか、自然度の深さによって違ったり、北なのか、南なのか方向にもよるでしょうけど。本当にお庭というのは一軒一軒が全て違うものなのです。そして、その土地の自然の恵みをたくさん取り入れられれば、とてもいいお庭になると思いますね。

 でも、今の住宅地は分譲地すべてに外国の石を貼ったり、外構も派手なデザインで統一したりしていて、その土地に関係のある材料もデザインもまったく使われないのは残念ですね。

 ガーデニングショーの時には、鎌倉にはこの木や草があるからこれを使おう、とか鎌倉石があるから使おうとか。例えば、栃木だったら大谷石があるし。それがたくさん使われていたら「ああ、栃木に来たなあ」という気分になるし、また実家に帰る人は帰ってきたなあって。地元の豊かさに目を向けないのはもったいないですね。

最後に、アクセスされている皆さんにメッセージをお願いします。
庭の楽しみは、国の平和があってこそ。戦争があったら庭どころじゃないですから。それこそ一番先に破壊されていくものですよね。 家は生きるのに必要だけれど、別に庭なんかいらないのですよ。庭というもの本当に贅沢品で、いったい地球上で何人の人が庭を持っているだろう、いくつの国が庭を楽しんでいるだろうと思います。

 また、だからこそ庭を贅沢品にしてはいけないと思います。私たちのように庭を持てる人たちは「本当に庭があって幸せだな」っていう庭をつくらなければ、庭を持てない人たちに申し訳ないですから。

 それには外国の物真似風の庭でなく、地元らしい庭をつくって「ああ、いい土地だな」と思いたいものです。そうして私たちも土地にお返しできないと、平和である意味が薄れていくのではないかしら。
 これは英国の学校で教わったのですが、「庭を作るときは、まず土地に神の声に耳を傾ける」ことを大切にしていきたいと思います。
本当に深いところから、お庭づくりを考えていられる白井さん。真摯にものづくりと向き合う姿が印象的でした。
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