花を植えた菜園 庭が生活の中で親しめるものに
野菜と一緒に背の高い丈夫な一年草を植えると愛らしい風景になる。花は仏壇に供えたり、食卓に飾ったりできる。
最近のご活動をお聞かせいただけますか?
そうですね、これまで以上に主人と協力し合って仕事をしています。私は個人住宅のお庭のデザインが多いのですが、どうも細かな部分に目が行きがちなのです。(笑)
 でも、主人は広い視野で考えられるので、お仕事を依頼された地元の背景を調べて構想を練ってくれるのですね。
 “住まい方”から始めて、その地元に何があるのか、大きく捉えてから制作に入るようになったので、デザインがとても安定しました。

 宮城県で起きた『地元学』という運動があるのですが、地元に無いものをねだるのではなく、あるものをさがして、地元にどんな豊かな自然や生活文化があるのかを探ります。
 でも、何もかも昔に戻すということでなく、その土地の経緯を知って、それを踏まえた上で今の暮らしを快適にする方法を考えていくのです。その運動をしている方たちからいろいろと勉強しました。

 個人住宅の庭づくりの場合、お客様が見栄えだけを気にして「イタリア風の何々で…」と最初はおっしゃっても、それは自分の土地ではすぐ色褪せてしまうデザインだ、と納得してくださるのです。

 やはり、長い時間関わっていく自分たちの大切な住まいですから、ずっと住んでいて、その土地の自然の恵みを感じられたり、逆にわずかでも自然再生に貢献したり…そういう庭づくりがこれからは快適でしょうし、家庭の庭の良さも生まれると思うのですね。
●白井さんのご主人、白井隆さんが総合プロデュースを担当された「第1回東京ガーデニングショー」より
洗濯物が干せないような気取った庭では家族もくつろげないだろうと考えた庭
英国での学生生活はいかがでしたか?
ええ、学校は楽しかったですよ。英国は教育の仕方が上手だってよく言う人がいますけど、教授の教え方が非常に良いのです。
 だから勉強したい人は、いくらでも勉強できる環境ですし。また、課題は眠る時間がないくらい大量にありましたが、どれも魅力のある内容でした。

 でも実は私、こういう職業に就きたいと思って留学したのではないのです。ただ本当に庭が好きだったので主人が「そんなに好きなら勉強したらどうだろう」と、言ってくれて。
 さすがに入学申込書には「デザイナーになるためにがんばります」って書きましたけど(笑)そんなつもりはぜんぜんなかったんです。ただ、好きで「知りたいなあ」と。

 だから全部の勉強が本当に楽しかった。好きなことをたくさん教えてもらって。まあ、学期の最後くらいで、いつの間にか仕事をする気になっていましたけれど、最初は「自分の庭がつくれればいいなあ」というくらいだったのですね。(笑)
英国と日本の庭園にはどんな違いがありますか。
根本的に自然に対する考え方が違う国ですね。対極です。
 英国だと「人間の英知は自然に優る」という考え方ですが、日本は山の神の信仰に見られるように、自然に対する畏敬の念があるのでしょう。自然の方が人間よりも上なのです。

 そういう考えが庭づくりにも影響していると思います。日本の場合はかなり引き算していって、人工のものを消していくところがあるように思います。けれど英国の場合は人間のデザインの力が強いですよね。幾何学的模様を下敷きにして、それを植栽で和らげて感じさせなくしていますが、明らかに人の考えが自然を支配しているのではないでしょうか。

 また、時々セミナーを依頼されますが、よく英国だけでなく欧米全体に対しても意見を求められます。例えば「お庭だけじゃなく街並や地域のことも考えないのですか」とか、「スイスやドイツだとお隣の庭が汚れてると注意が来るって話を聞いたことがありますが、そういう国々のように日本も景観も統一した方がいいのじゃないか」って。

 確かに、外から見て「いいお庭があるな」というのは大事ですが、そのためには、やはり家の中の人が心を合わせて気持ちがいいと思う庭をつくらなければ、外から見ても本当の意味できれいではないのではないでしょうか。

 それに欧米とは気候風土や生活文化の違う日本で、ヨーロッパのような景観が合うのでしょうか。それは昨年東京の明治神宮外苑で開催された『第1回東京ガーデニングショー』のテーマガーデン『心の中の鎌倉』をつくる時にも感じました。
●「第1回東京ガーデニングショー」より
庭を活用しながら家事を楽しくできるように
それはどのようなテーマガーデンだったのですか。

『心の中の鎌倉』は人工的なグランドデザインを極力排除して、代わりに鎌倉の山や湿地などの自然や、鎌倉らしい庭の意匠と材料を盛り込んで12軒の集落をつくりました。
 参加してくださった造園家やデザイナー、園芸家の皆さんが同じ考えの下で担当部分を手掛けて、落ち着いた風景ができ上がったのです。 そして「このようにして“日本の集落”はできるのではないか」と思いました。

 日本は「向こう三軒両隣」という考え方ですよね。ご近所の方たちと協調していこう、って。それは日本独自の自然観というか「和」を尊ぶ考え方なのですから、そういう考え方を持った人が集まって、決しておかしな集落ができるわけないのですね。

 生っちょろい考え方だと思われる人もいるでしょうが、私は逆に高度だと思うのです。生活文化とか意匠とか、自然風土に対する考え方とか、生半可であっては協力できないですよね。
 ひとり一人が腕がよくて、技もあって、知識もあって、さらに心がけがなければできないことですから。

 非常に難しいやり方だと思うのですが、それがガーデニングショーの時は参加された方々が謙虚で、また、よく辛抱してくださったのでしょう。 和気あいあいと進んで、皆さん「工事がとても楽しかった」って。
 
 また、その集落の真ん中に祠を祭ったのです。そうしたら風景が不思議と落ち着いたのですね。鎮守の森は普段は目立たないのですが、なくなると喪失感の大きなものですね。
 
 だから考えてみると日本は不思議な国ですね。欧米の人から見たらなかなか理解できないかもしれません。

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