「楽園」をテーマに、世界中を駆け巡っていられる三好さん。
昨年、初めての大型写真集『屋久島』を出版されました。ページをめくれば、しっとりとした森の空気が広がる。この写真集には、フランス共和国大統領ジャック・シラク氏も手放しの賛辞を寄せています。
飛竜落とし付近の滝
ウイルソン株
三好さんの写真といえば、処女作「RAKUEN」以降、セイシェルやタヒチなどの「青い空と海」、透明な「南国の楽園」というイメージが大きいのでは。
 『日本の世界遺産』や『富士山』など国内の写真集も出版されていましたが「9年もかけて屋久島を撮られていたとは!しかも、こんな大作を?」と驚いた人も多いはず。では屋久島撮影のきっかけとは何だったのでしょう。
そうですね、僕自身も「楽園」はタヒチやモルディブなど南の島にあると思っていました。でもタヒチのジャングルの中で、森の雰囲気というか「精霊を感じさせるような写真」を撮ってみたいなあ、と思ったのですね。ビーチでは感応できない、何かスピリチュアルな気配をジャングルから感じていたのかも。太古から続く森と人との交わりや共生してきた歴史、森の神秘性に惹きつけられていったのでしょう。
 それで、ボルネオとか世界の森をいくつかまわったのですが、屋久島が一番おもしろかったんです。樹齢何千年という木がある場所は地球上にそう無いでしょ。

 それと、死海の畔にあるユダヤの聖地マサダでのこと。荒野の真ん中で偶然屋久島の写真に出会ったんです。岩山に登るロープウェイ乗り場の片隅に何枚かピンナップしてあって。カレンダーか何かの切り抜きを売り場のおばさんが大切にとっておいたものらしいけど、鮮明な印刷の濃い緑、滴る水がまわりの乾ききった赤い砂の風景と強烈な対比を見せていて。

 その時僕はどんなうまい冷えた飲み物よりも、この写真の方がずっとありがたく思えたんです。一瞬にしてサーッと何かが体にしみ込んで広がっていき「これが楽園だ」と叫びたい気持ちでした。ドキドキして写真を見つめながら、日本にいる時には感じることのなかった大切なものの意味を、はるか離れたイスラエルで知ったのです。
 そんなきっかけがあって屋久島をじっくり撮ることになりました。
荒川口から入るトロッコ道
母子杉周辺の森
屋久島撮影中の苦労話がありましたらお聞かせください。
苦労ですか?う〜ん、技術面では多少の苦労があったかな。
 林芙美子さんの小説『浮雲』で「一月(ひとつき)に35日雨が降る」とあるように、雨量と湿度が半端じゃありません。また、写真では明るく見えても実際は光もほとんど届かない、暗い森の中。撮影ではシャッタースピードを遅くして、露光時間を長くする必要がありますが、その間にフィルムが湿気でふやけて動き、ブレが生じてしまうのです。
 カメラの改造を繰り返したり、シャワーキャップをかぶせるなど、いろんな工夫を凝らしました。

 でも、苦しいとは全然思わなかった。人から見れば「雨の中撮影なんてタイヘンね」って思うでしょうけど。自分が興味を持っていることだし、きれいな場所だし。それを追い掛けるのは、とても楽しい。

 僕はいつもさまざまなことを思い描きながら撮影しています。屋久島でもそう。気持ちが高まってくると、ファインダーの中の苔むした風景が京都の庭に、滝やゆっくり動いていく霧が龍の姿に、地面に突きささった倒木が仏像に、木々の間の巨樹が五重塔に見えてきます。

 さらに小さな水滴の中に宇宙が広がり、そのうち樹が話しかけてくるような仙人の境地になると、もう森の中にいるのが、おもしろくてたまらない。だから、気に入った場所には10回も20回も足を運んだし、これ以上先に進んだら帰って来れない、という限界まで行きました。実際、屋久島では年間何人もの方が戻りません。命がけでした。

 ただ、がっかりしたことはありますよ。何十年かぶりに発見された苔があると聞いて翌日撮影に行ったら、もう盗難にあっていました。珍しい植物を収集するコレクターがいるのです。
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